「僕らが取り扱っているのは『家の歴史』なんですよ」

「何が一番かというと、家の所有者さんの気持ち。これだけです」

2017年3月。福井県美浜町で行われた「第9回 まちづくりの専門家から見る美浜町の空き家魅力発見ツアー」に行ってきました。

冒頭で紹介したのは今回のツアーの主催者である「NPO法人ふるさと福井サポートセンター」の理事長・北山大志郎さんの言葉です。

北山大志郎さん
北山大志郎さん

「空き家を活用する」と聞くと、誰も使わなくなった家に、ただほかのひとが住むことになるような印象がありましたが、北山さんが仰っていたのは「家のストーリー」を知ってもらいたいという、一見空き家を活用することとは関係なさそうな言葉でした。

家の所有者さんにお話を聞いて、「家のいいところを探していく」ことによって、これからその家に住むひとも、建物に愛着が湧く。北山さんはそんな想いで空き家活用の活動をしているそうです。

福井県美浜町って?

美浜町は福井県の南西部にある、日本海に面した町。原子力発電所があるので、その名を聞いたことがある方も多いかもしれません。

人口は約9,774人(2017年4月1日現在)。現在の美浜町は1954年に、福井県三方郡の4つの村、北西郷村、南西郷村、耳村、山東村が合併してできた町です。

空き家を壊すのではなく「残す」という選択肢

灯台もと暮らし編集部をツアーに誘ってくれたのは、福井県を含め3拠点居住を実践されている作家・ITジャーナリストの佐々木俊尚さんです。

佐々木俊尚さん
佐々木俊尚さん

この空き家見学ツアーは今回お届けする回が9回目だったそうなのですが、佐々木さんや僕らのように東京のメディアが参加するのは初めて。

「福井県の空き家見学ツアーに佐々木俊尚さん?」と不思議に思う方も多いでしょう。まずは北山さんに、佐々木さんとの出会いや、なぜ空き家見学ツアーをやるのか?について聞いてみました。

じつは北山さん、NPOとは別に建設会社を経営しており、もともとは建設会社のお仕事をしている中で、空き家の魅力に気づいたそうです。

会社は土木工事や公共工事がメインでしたが、近年では公共工事の仕事が減ってきたため、何かできないかと試行錯誤しているうちに、家や建物を解体する工事の仕事が増えていき、まだ使える家を壊すことに疑問を感じた北山さんは、美浜町の空き家のためにNPOを立ち上げます。

「たとえばある家があって、親や親戚から相続することになりますよね。ただ、相続しても自分たちは別の場所に住んでいるところがあるからいらないとか、解体して更地にして売る、という方がたくさんいらっしゃったんですね。

解体工事を重ねていくうちに、『まだ全然使えるなぁ』という家でも、お客さんの要望で壊さなきゃいけない、ということが多くあって。まだ使えるのに壊してしまって、もちろん町並みも変わっていってしまう。それがいややなと、思っていました。

そうやって考えていたのがもう10年くらい前です。そこから、壊すんじゃなくて残すという選択ができないかと思って、使える空き家はどんどん残していく活動を始めました。いろいろと活動していく中で、NPOであれば行政と協業したり、情報交換もできたりするということで『ふるさと福井サポートセンター』を立ち上げました」(北山さん)

佐々木俊尚さんとの出会い

空き家見学ツアーを始めとした空き家関連の活動の中で、北山さんは佐々木俊尚さん・松尾たいこさんご夫妻と出会います。おふたりは現在も3拠点居住をされていて、その中のひとつが福井県内です。

佐々木さんが講演や取材で福井県鯖江市に来られており、北山さんご自身は福井のIT企業に仕事仲間がいて、その縁であるとき一緒に食事する機会があったんだとか。

「もともとは鯖江町のつながりで連絡を取らせてもらうようになりまして。つながりがあった中で、たいこさんが、アトリエを福井に持ちたいという話を聞きました。福井に拠点をつくる前に、軽く移住をしてみたいという話があって、だったら僕らが空き家を改修したリノベーションハウスがあるので、そこに住みながら拠点を探してほしいとご提案しました」(北山さん)

そしてあるとき北山さんが空き家見学ツアーのことを佐々木さんに相談すると「情報力のあるひと、発信力のあるひとに空き家見学ツアーを一回見てもらって、それぞれが持っているメディアに発信してもらうのはどうだろう」と話になり、今回のツアー企画と記事へとつながりました。

移動に使ったバス

空き家見学ツアーの様子

「灯台もと暮らし」チームは新幹線で米原駅まで行き、特急に乗り換えて、目的地の敦賀駅まで向かいました。米原駅からの特急は約30分なので、東京駅からだと合計で3時間ほどで到着します。

ツアーには佐々木俊尚さんと松尾たいこさんのほかに、ツアーの後のパネルディスカッションに参加するメンバーも同行しました。

不動産コンサルタントの長嶋修さん、静岡県熱海市で地域づくりを行う株式会社machimori代表の市来広一郎さん、「よるヒルズ」「リバ邸」などコンセプト型シェアハウスを立ち上げたことでも有名な株式会社ニューピースの高木新平さん、そして灯台もと暮らしを運営する株式会社Waseiの鳥井です。

ツアー開始時にパネルディスカッション登壇者が集まった様子
ツアー開始時にパネルディスカッション登壇者が集まった様子

この日は4軒の空き家と1軒のリノベーション済み物件を見学させてもらいました。空き家は実際に入居者を募集しており、気に入ったら入居に向けて手続きを進めることもできるそう。

<空き家1軒目>

右手に見える海からほど近い物件へと歩く
右手に見える海からほど近い物件へと歩く

空き家1-1

空き家1-2

木造2階建て、築42年の空き家です。築42年というと正直な話、相当古い家なのでは?という印象を受けましたが、オール電化やリフォームを経ているため、思ったよりもきれいなおうちでした。

修繕が必要なところは「台所の床のきしみ」と「西側2階の換気口」。こういった各種情報は資料にまとまっており、事前に参加者に配布されます。また、補足情報として北山さんが各物件について、所有者の方はどんな方なのかなど、丁寧に説明してくれます。

また資料の中で気になったのが、「こんなおうちでした」という、家の歴史を紹介するコーナー。このおうちの場合は、以下のようなことが書いてありました。

  • 2階から海が見えるように建てました。夏は花火がみえます
  • 近所の子どもが寄って勉強をしていました
  • 子ども会で百人一首をの練習をしていました
  • アメリカの技術者家族が近くに住んでいて、よく遊びにいきました
  • 庭にはネーブルやレモン、ゆずの木があります

単に目の前にある家がどういったスペックなのかというだけではなく、家の歴史に焦点を当てた情報があることで、これから住む人も家のことを知れて愛着が湧いてきます。

<空き家2軒目>

空き家2-1

空き家2-2

木造2階建て、築53年のおうち。修繕が必要なところは台所。

2階の窓からは、一方からは日本海、もう一方からは三方五湖(みかたごこ)のひとつ、久々子湖(くぐしこ)を見ることができます。海好きにはたまらないおうちです。

こちらのおうちは「早瀬地区」という集落にあるのですが、資料には「集落の特徴や要望」という記載があり、空き家に住みたいひとが実際に住んだあとの集落とのお付き合いについて、想像しやすいようになっています。

この家の場合は「格式高いひとが多いです。相談すれば集まってくれます。楽しく過ごしていける場所です。周囲にとけこんで生活してほしい」とありました。

<空き家3軒目>

北山さんにお話を聞く様子
北山さんにお話を聞く様子

こちらも2軒目と同じく早瀬地区にある物件。木造平屋ですが増築されており増築部は2階建て、築80年という、今回最も築年数の経ったおうち。

北山さんは、以下のように物件のことを紹介します。

「所有者さんは神戸に家をもっていて、ご高齢です。このおうちを管理しているのは妹さん。築80年なので、いろいろとリフォームしています。昭和52年に奥の離れを、平成19年にお風呂のリフォームをされているとのことです。年に4、5回ほど所有者さんがこちらに帰ってきて、使われているそうです。

見ていただくとわかるのですがこの家にはエアコンがありません。ですので、実際に住んでいただくとなったときにはエアコンを購入する必要が出てきます。

みなさんご存知でしょうか、『千歯扱き』という農機具がありまして、その発祥の地のような場所なんですね。ここでつくって全国に発送していたそうです。

こちらの集落は『子ども歌舞伎』という伝統的なお祭りが5月1日にあります。子どもが歌舞伎の格好をして、踊るお祭りです」(北山さん)

ほかにも町の歴史や、美浜町で一番栄えていたのは早瀬地区であること、昔は漁業が盛んだったが今は過疎化が進んでいて空き家率が美浜町の中でも一番多い地区であることを説明していただきました。

実際に空き家を見て町の空気を体感しながら、町の歴史や状況について知ることで、自分がこの空き家に住んだときにどんなふうに暮らすのか想像しやすくなります。

<空き家4軒目>

空き家4-1

空き家4-2

木造2階建て、築43年。先ほどまでの3軒は海が近い物件ばかりでしたが、こちらは山の中にある「新庄地区」のおうちです。

修繕が必要な箇所は「トイレ」「風呂」「畳のしみ」とのことで、リフォームは大変そう。新庄地区は世帯数が196。家の裏には畑があり、資料によれば近隣環境から子育てもしやすいんだとか。

冬には居間の窓からきれいな雪景色が見えるので、雪景色を眺めるのが好きなひとにはピッタリの物件だと思いました。

<リノベーション済み物件>

リノベーション済み物件1-1

リノベーション済み物件1-2

最後に立ち寄ったのは、空き家ではなく、リノベーション済みの物件。とてもきれいで、今すぐにお店が開けそうな空気感で驚きました。ただ、北山さんから聞くとこちらの物件はかなり傷んでおり、リノベーション前はボロ屋敷と言ってもいいような散々な姿だったそうです。

ツアーの参加者のみなさんが「リノベーションでここまできれいになるんですね!」と感動していたのがとても印象的でした。空き家だけではなく、リノベーション済みの物件を見せてもらったことで、実際に空き家に住むことを決めてリノベーションした場合、どのようになるのか具体的に想像できます。

パネルディスカッションへ

ツアーのあとはまちづくりの専門家たちによるパネルディスカッション。空き家見学ツアーを終えた一同は、会場である「美浜町生涯学習センター なびあす」へ移動します。

空き家や不動産、まちづくりに関する興味深いお話がたくさん聞けました。この日のパネルディスカッションの詳しい様子は、TABI LABOにてレポートが出る予定です。

パネルディスカッションの様子
パネルディスカッションの様子

空き家見学ツアーを終えて

北山さんは空き家について、こんなふうに語っていました。

「所有者の方にヒアリングしていく中で、僕らは『家のええとこ探し』をするんです。所有者さんに話をうかがうと、この家ってこんなにおもしろい、この地区はこうでこうだからこの家はこうなんです、という話がたくさん出てくる。そういう歴史を知れたら、この家に住みたくなりませんか?」(北山さん)

この話を聞いたとき、「住んでみたいってなるなぁ」と素直に思いました。単に部屋がいくつあって、広さがどれくらいかというだけでなく、「家の歴史、その家が持っている背景」を知ることにより、その家のことを好きになったり、愛着が湧いたりする。

それは、灯台もと暮らしが普段から、ある地域や、お店や、ひとに対してやってきたことと同じことだと思いました。

編集部は北山さんの考え方に共感し、今後も引き続き美浜町で何かプロジェクトをご一緒できないかと「NPO法人ふるさと福井サポートセンター」のみなさまと一緒に計画中です。美浜町の空き家を使って、何か楽しいお知らせができるよう考えているので、そのときまでお待ちいただけますと嬉しいです。

(この記事は、NPO法人ふるさと福井サポートセンターと協働で製作する記事広告コンテンツです)