昔、夏休みに福岡に住むおじいちゃんとおばあちゃんの家に行ったとき、おにぎりを作るお手伝いをすることがあった。
生粋の九州男児と言われたわたしのおじいちゃんは、あんまり笑わない人で、わたしたちが久しぶりに尋ねると、目をひんむいて「スイカ食べんねスイカ」と言ったり、「そうめん冷えとるけん早よ食べりんしゃい」と、低い声で言ってすたこらと自分の部屋に戻ってしまうような人だった。
そんなおじいちゃんは、わたしとおばあちゃんと母がおにぎりをにぎっているのを、ビールを飲みながら見ていて、手伝いはしなかった。けれど、慣れない手つきでご飯粒をべたべたつけながら、おにぎりをつくるわたしに「それは小さすぎ」「塩は少しでいい」と低い声であれこれ口出ししてきた。
どうすればいいか分からずに、当時のわたしの小さな手のひらいっぱいにお米をまるめこんで、ぎゅっぎゅとにぎって見せると「ああ、こんくらいがじょうもんばい」と言って、にかっと笑った。そのくしゃくしゃな顔は、今でも忘れられない。
お国ことば解説
じょうもん:上等、の意。「じょうもんさん」は「美人」という意味を持つ博多弁。