【島根県海士町】特集を組んできた『灯台もと暮らし』。現在、武蔵野大学と株式会社巡の環が協働で行う「海士ゼミ」の密着取材をしています。テーマは「都会と田舎の新しい関係を考える」。学生たちと共に、座学や、フィールドワークを交えながら、2015年6月から2015年11月の約半年間に渡って海士町の未来を探ります。
今回は2015年9月7〜9日にかけて海士町に訪問した学生たちの活動をレポート。濃密な3日間には、海士町の歴史、資源を知り、そして地域の人とコミュニケーションを取るうえで大切なことなど……学生目線で見て学ぶ海士町フィールドワークには、多くの発見がありました。
海士ゼミフィールドワークの日程
1日目
- 海士町内観光
- オリエンテーション:現在の海士町の取り組みと現状を知る
- 実地取材の作戦会議
2日目
- 各自、希望の取材先へ
- 町民の方々とBBQ
3日目
- チームごとの学びの共有
- フィールドワーク振り返り
- 町内観光、希望者は町長取材
【1日目:いざ菱浦港へ。海士町に無事到着】
学生たちとは現地集合。それぞれが島の入り口となる菱浦港にやってきました。うれしいことに天気は晴れ! ぼくが海士町に来るのはこれで3回目。「灯台もと暮らし」チームが来るのは2回目ですが、初めての快晴です。
誰ひとりトラブルに見舞われることなく集まり、港に併設されたキンニャモニャセンターでまずは腹ごしらえ。その後、海士ゼミの拠点となった隠岐開発総合センターへ。この施設には海士町の教育委員会をはじめ、灯台もと暮らしでも取材した「島の図書館」が併設されている場所でもあります。
隠岐開発開発センターでは、オリエンテーションを開始。あらためて自己紹介をしました。というのも今回のフィールドワークには学生たちだけではなく、ふるさとプロデューサーの研修生として社会人チームが参戦しているからです。
こちらは海士ゼミ講師の信岡良亮さんと同じ株式会社巡の環の岡部有美子(以下、岡部)さん。地域コーディネーターとして、海士町の島民と学生たちとを繋ぐ役割をしてくれました。
全3日間に及ぶスケジュールを全員で共有したら、まずは海士町を知るために、島内を見て回ります!
海産物を瞬間冷凍する「CAS凍結センター」
はじめに訪れたのは、海士町の海産物を瞬間冷凍して、本土まで鮮度を保ったまま届ける「CAS」の凍結センターに来ました。
続いて海士町の成り立ちに重要な位置づけであり、「島の故郷の場所」でもある隠岐神社へ。
島民の故郷「隠岐神社」
鳥居に描かれた「隠岐神社」の文字。歴史ある場所ならではの荘厳な雰囲気を感じます。
少し傾斜になっている長い参道を歩いて行く学生たち。彼らが回った、隠岐神社の見どころをご紹介します。
隠岐神社のポイント[1]網掛けの松
隠岐神社の入り口には、「網掛けの松」があります。今はもう、大きな切り株だけが残されている状態ですが、その昔は目の前が海。船の網を松にかけていたのではないかと言われています。
隠岐神社のポイント[2]後鳥羽上皇のご火葬塚
境内には、後鳥羽上皇のご火葬塚があります。後鳥羽上皇とは、平安時代末から鎌倉時代初期にかけての第82代の天皇であり、1221年に承久の乱を起こした人物です。
朝廷の権力を取り戻すために挙兵した後鳥羽上皇ですが、鎌倉幕府の北条氏に敗れ、隠岐の島に遷ることを余儀なくされました。
海士町は島根県から北に約60kmも離れた地にあります。当時の人の感覚だったら、今よりもかなり遠く感じる島のはず。そんな土地に、罰とはいえ天皇を送る……つまり元天皇の「住まい」となる場所に選んだのが海士町なのです。
もしかしたら鎌倉時代当時にとって、海士町は中国などと繋がる重要な交易拠点であり、文化の栄えた場所だったのではないか? そして当時の朝廷や幕府にとっても重要な位置づけの土地だったのだろうと考えられています。
どこか荘厳な雰囲気のする境内
隠岐神社の参道は、さらに奥まで進む道が続きます。歩く途中に見る階段さえ、自然と一体化していて綺麗ですね。
海士ゼミの学生たちはみんな、背の高い木々を仰いだり足元にふと歴史を感じる石や苔を見たりして何か会話をしているようです。
神様に手を合わせて、ご挨拶を終えた様子。
ここまで案内してくれている岡部さん。立ち止まっては歴史や文化について説明をしてくれました。
人間の営みと自然が調和する「宇受賀命神社」
「宇受賀命(うづかみこと)神社」は田園のなかに長い参道がある風景が特徴的です。
現存する最古の神社名簿「延喜式」にも記載され、かつ最高位の名神神社に位置づけられています。
何度でも思い返したくなる、人間の営みと自然が調和した美しい風景です。
みんなで参拝。
奥に見えるのが本殿です。隠岐神社のそれを上回る大きさだそう。
絶景の「明屋海岸」で集合撮影
婚姻のご利益がある道を通って、明屋海岸にやってきました。綺麗だ!
「明屋海岸から宇受賀命神社にいたる海岸線の道路は、日本海唯一の神々の婚姻に由来するもので、縁結び、子宝、夫婦円満のご利益のある道とされます」(引用:隠岐神社)
島で迷子になったら牛と遭遇
じつは、明屋海岸から次の目的地へ移動の最中、編集部は学生チームを見失ってしまいました。
急げ急げと先に走る学生チームの車を探していると、道路脇にふいに現れた、一頭の牛。
海士町は、高級な牛肉ブランドのひとつ「隠岐牛」の生産地で有名です。
子牛の頃から山で放牧されているため、島の中をドライブしていると見かけることができます。こうしたのびのびした環境だからこそ隠岐牛としてのブランドが育つのだなあと納得します。
日本地質百選にも選ばれた「島前カルデラ」
さて、編集部と学生チームは海士町(中ノ島)を一望できる豪華な展望台で休憩タイムに。
隠岐諸島のうち海士町(中ノ島)を含む西側の3島及び周辺の無人島により構成される群島を、「島前」といいます。
ゼミ主宰の明石准教授が眺めているのは、およそ500万年前までに火山活動によって形成されたという「島前カルデラ」です。島の中心に大きな山があり、その周囲を海が囲み、さらにその外側を山が囲んでいる地形です。恐竜がいてもおかしくないような景色ですよね。
隠岐世界ジオパークを構成することに加えて、日本の地質百選にも選ばれています。
オリエンテーション:島を見て回った感想を共有する時間に
島内観光を終えたらオリエンテーションを開始。1日かけて島を回り、自分の目で海士町を見た感想はどのようなものなのでしょうか。
「人口約2400人の島とはいっても想像以上に大きなところだった」
「学校にいるだけだと学校の外に出る機会があまりなくて……。海士の、すごく綺麗な海を観るだけで癒やされました」
「ぼくはいつも地域で活動しているので、早く地域の方と交流して、海士節を感じたいですね」
オリエンテーションでは、「人の話を聞く」ワークショップも実施。2日目からの取材に向けたウォーミングアップです。
「何か新しいことを発見したり、解決策を見つけたりすることが目的じゃなくて。自分が大事にしていることを誰かに受け取ってもらえることは嬉しいよね。
地域で20年、30年と暮らしてきた方と会うにあたって、無理に聞き出したり、自分がほしい情報を取りに行く必要はないよ。”こいつは自分の心を受け取ってくれたな”と相手に思ってもらえることが大切です」と、信岡さん。
「なぜ今は自分はここにいるのか」「海士町で学びたいこと、得たいことは何か」。それらを確かめる時間になりました。
もとくら編集長・佐野も、学生に人生相談をしていたようです。離島だからこそ打ち明けられる悩みがあるのかも?
【2日目:学生たちはチームで個別活動を開始】
2日目は、学生たちがそれぞれのチームに分かれて個別活動を始めました。もとくら編集部が学生と追いかけた、島の人々の一部ご紹介。
[1]地域をおこす「崎みかん再生プロジェクト」
もとくら編集部が追いかけたのは、海士町の崎地区でふたりの男性がはじめた「崎みかん再生プロジェクト」の作業を手伝うチーム。
「崎みかん再生プロジェクト」の果樹園へとつづく道を抜けると、空が近く感じるくらいダイナミックな空と、地平線まで見渡せる海がありました。
なだらかな傾斜にはみかんの苗木が1.600本埋えられています。
竹を刈る白石宗久さん。娘さんが島前高校に島留学するのを機に移住し、海士町役場の地産地商課で「崎みかん再生プロジェクト」に携わるひとりです。
もうひとりの担い手が丹後貴視さん。昭和40年代前半をピークにみかん生産が活発だった崎地区で、「生産が途絶えてしまった崎みかんを復活させることで地域を興し産業にする」というプロジェクトに志の高さを感じ、海士町に移住しました。
この日は果樹園の面積を大きくするために、みんなで竹を刈ります。肥沃な土壌にするために竹を粉砕して、堆肥になる竹チップを作ります。
みかんの苗木は、1日で50〜100本植えているそうです。
植えた苗木が数十年後に大きく育ち、崎みかんという島の産業となるのだろうか……? 実際に果樹園で働くことで、より島の未来をリアルに感じられたのではないでしょうか。
作業を終えたら、崎地区にある旧崎小学校で丹後さんと白石さんによる活動紹介のプレゼンテーションを聞きました。
どんな背景があり移住したのか?
天候による栽培の難しさはないのか?
今よりも海士町という地域をよくしていくために必要なことは?
ふたりによるプレゼンが終わった後には、学生からの質問にひとつずつ丁寧に答えてくれました。
②地域の番組を制作する「あまコミュニティチャンネル」を見学
こちらのチームは、地域に根ざした放送番組『あまコミュニティチャンネル』を制作している合同会社隠岐アイランズ・メディアに訪問。
海士町や島根の地域限定で放映される番組とは? どんな内容の番組があるの? どうやって制作しているの? このような疑問を一つひとつ、聞いていきます。
隠岐アイランズ・メディアさんのオフィスでは、動画ソフトで番組編集の作業を生で観ることができました。東京に持ち帰って活かせる何かを得られたかもしれませんね。
【3日目:海士町での学びをどんなふうに活かす?】
とうとう最終日。船が出港するのはお昼過ぎで、あまり時間がありません。学生たちは朝から集中して意見を交わします。
この日は2日間海士町で見聞きした情報や感覚を振り返り、チームごとに学びの共有をおこないました。
海士町で得た学びを、東京に持ち帰り、どう活かすのか?
フィールドワークを終えた海士ゼミ後期には、学生たちは学びを昇華して「都市と田舎の新しい関係性」をテーマに発表する場が設けられます。みんなで海士訪問の学びをポストイットに書きだしながら、アウトプットの方法を考えます。
こちらは社会人チームの様子です。笑顔を交えながら、島で得たものを活かしてアウトプットする方法を話し合っていました。
さいごに、チームごとに話し合った内容をもとにアウトプットの構想を発表しました。
学生たち&社会人チームは今回の学びをどう活かしていくのか、後期の講義でおこなわれる発表会が楽しみでなりません。
島の食事で「おつかれさま」
船の出港が迫る最終日のお昼時。海士町で食べる最後の食事は、島の食材をふんだんに使った料理!
食材を作る、捕る現場を生で見てきたからこそ、食べるありがたみを実感できます。島の恵みに感謝して、いただきました。
* * *
海士ゼミ後期は、今回のフィールドワークで学び得たことを形にする場です。本講のテーマ「都会と田舎の新しい関係を考える」発表はどのようなものになるのか。これから動きを加速させていく学生たちの今後がとても楽しみですね。
そして、現地に訪れて生で見聞きすること、汗をかくこと。編集部は引き続き、学生たちと同じように、肌で感じた体験を伝えていきたいと思います!
- この島は未来の縮図たり得るか【島根県海士町】特集、始めます。
- 【島根県海士町】ぼくが島に辿り着くまで− 巡の環 信岡良亮 −:第1回
- 【島根県海士町】ヒトが絶滅危惧種?日本を変えないと海士町は変わらない:第2回
- 【島根県海士町】巡の環が目指す、江戸時代の藩邸をモデルにした「島の大使館構想」:第3回
これまでの講義一覧
- 講義をはじめる前に
- 序章:「海士ゼミ」に参加する君たちへ
- 第1回:地域活性には4層のフェーズがある
- 第2回:君たちは「プランB」をつくっていく世代だ
- 第3回:「人間関係を重視する」「物事を進めていく」力の両方をインストールしよう
- 第4回:「モノ」や「お金」に心を乗せて「あなたに」贈ろう
【島根県海士ゼミ】概要
今回の舞台である島根県海士町は、隠岐諸島に浮かぶ、人口約2400人の島です。この10年間で、約400名のIターン者が移住しており、地域活性化のモデル地域としても有名な土地。
「海士ゼミ」に参加するのは、東京都江東区の国際展示場駅が最寄りの、都心の大学・武蔵野大学環境学部環境学科の学生12名。全員が、それぞれの希望でこのゼミに参加しています。
教壇に立つのは、海士町に拠点を置く株式会社巡の環の信岡さんと、明石准教授。そして、全体の取材と成果発表の場として、『灯台もと暮らし』編集部が参画します。
「海士ゼミ」スケジュールについて
2015年6月開催の第1回ゼミから、2015年7月開催の第4回目までの講義前半で、まずは基本的な海士町についての知識と、信岡さんが提唱する「都市農村関係学」への理解、そして、地域で活動することへの思考を深めます。
それぞれの関心が定まったら、ゼミ内でチーム分けをし、「体験型」「発信型」など、実際にフィールドワークで行う「計画」を立てます。そして、東京での座学を終えた2015年9月、実際に学生が海士町でフィールドワークを実施。第5回以降の講義後半は、その調査・体験をもとに、チームで研究成果を発表するという流れです。
【第1回:都市と田舎の問題インプット】
- それぞれの興味と問題設定
- チーム分け
【第2〜4回:妄想・チームビルディング】
- チームビルディング
- アイスブレイク
- 自分が島でトライしたいこと チーム内発表
【第3回】
- 状況を妄想 どんな情報がどれぐらい必要か
- 現地で何を聞かないといけないか
- 帰ってからの自分のアウトプットを設定
【第4回】まで終了
- インタビューのやり方を学ぶ
- 信頼関係をつくりつつほしい情報を聞く方法
【海士町訪問:フィールドワーク(9/7~9)】
- インタビュー、情報収集等
【第5回-8回(9/29, 10/13, 10/27, 11/10)】
- 授業時間外でプロジェクト活動
- 授業時間は相談
【発表会(11/29)】
【島根県海士町ゼミ】講師陣について
講師:信岡 良亮(のぶおか りょうすけ)
取締役/メディア事業プロデューサー。株式会社巡の環の取締役。関西で生まれ育ち同志社大学卒業後、東京でITベンチャー企業に就職。Webのディレクターとして働きながら大きすぎる経済の成長の先に幸せな未来があるイメージが湧かなくなり、2007年6月に退社。小さな経済でこそ持続可能な未来が見えるのではないかと、島根県隠岐諸島の中ノ島・海士町という人口2400人弱の島に移住し、2008年に株式会社巡の環を仲間と共に企業。6年半の島生活を経て、地域活性というワードではなく、過疎を地方側だけの問題ではなく全ての繋がりの関係性を良くしていくという次のステップに進むため、2014年5月より東京に活動拠点を移し、都市と農村の新しい関係を模索中。【募集中】海士町でじっくり考える「これからの日本、都市と農村、自分、自分たちの仕事」
ゼミ主宰:明石 修(あかし おさむ)
武蔵野大学工学部環境システム学科准教授。博士(地球環境学)。京都大学大学院地球環境学舎修了後、国立環境研究所に勤務。地球温暖化を防止するための技術やコストをコンピューターシミュレーションにより明らかにする研究に従事する。その一方で、環境問題の解決において技術的対策は対症療法に過ぎず、社会を真に持続可能なものにするためには、社会や経済の仕組みそのものを見直す必要があるのではという問題意識を持つ。2012年に武蔵野大学環境学部に移ってからは、おもに経済的側面から持続可能な社会の在り方について研究を実施。物的豊かさをもとめる人類の経済活動は肥大化し、本来あるべき地球のバランスが崩れてしまった今、もう一度自然や地域コミュニティに根ざした社会をつくりなおす必要性を感じ、そうした場としてローカルな地域での暮らしや経済に関心を持っている。
(イラスト/Osugi)
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- Iターンのきっかけにも!島根県海士町「島旅企画会議・AMAカフェ@東京」に参加してきました
- 島根県海士町の山内道雄町長、海士町交流特命大使の信岡良亮さんが登壇|TIP*Sマナビジカン主催のイベントが開催
この特集の裏話・未公開音源をnoteで限定公開中!
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