島のあちこちで新しいアイディアが生まれ、攻めの施策が打たれている海士町という土地。島の繁盛を目的として、魅力を存分に発信していきたいと語る観光協会は、一体どのような取り組みをしているのでしょうか。
観光協会の青山敦士(あおやま あつし)さんにお話を聞いてみました。
島の繁盛を目指して
── 観光協会の仕事についておしえてください。
青山敦士(以下、青山) 観光協会の仕事は多岐にわたりますが、観光案内から「海士の島旅」という新しい観光スタイルの事業運営や、各種行事や「島の経営会議」と呼ばれるカンファレンスを主催したりしています。
さらに「離島キッチン」という関東での店舗経営、「マルチワーカー」という仕組みの人材派遣にも取り組んでいます。
青山 すべての仕事の目的は、島の繁盛です。と言うのも、ほんの10年前まで海士町はこのままいくと超過疎、超少子高齢化、そして超財政悪化の町となり、近い将来財政再建団体になるのではと言われていた町なんです。それを避けるために「ないものはない」というキャッチフレーズを掲げ、ハンデをプラスに捉える発想の転換をしました。海士町がいつまでも海士町として存続し続けるために、様々なことに取り組んでいます。
── 「海士の島旅」のことについても、具体的に教えていただけますか?
青山 「海士の島旅」とは、観光協会が中心となって取り組んでいる観光促進事業です。特設サイトも開設しています。
中でも僕らは島宿の取り組みに力を入れています。海士町は島ですから、移動には船が必須です。ですが、東京からだと片道6時間以上かかりますし、船の便も限られていますので、遠方から来られる方にとって海士町への日帰り旅はなかなか現実的ではありません。
島旅には宿泊が付き物ということで、その滞在をより快適に、より思い出深く過ごしていただけるように、宿のコンセプト決めや予約管理、港からの送迎サービスやリネンの洗濯、トイレの掃除まで宿の経営者と一緒になって行っています。
── 港から距離がある宿もあるので、送迎サービスはとても助かります。
青山 そうですね、でも僕らも送迎の際にお客様と会話できることはとても嬉しいんです。どこから来た方なのか、何を楽しみに海士町を訪れてくださったのかなどを知ることは、今後の観光協会の活動を行う上で非常に参考になります。帰りに港までお送りする際も、どこが楽しかったのか、不便だったところはなかったかなどについて、リアルタイムでお客様の声を聞けるのは貴重な時間です。
より魅力的な島を目指すためのヒントに満ちた時間なので「ぜひ送り迎えさせてほしい」と宿にも伝えています。
クリーニング事業と「外貨」の関係
── 観光協会がリネンの洗濯を請け負うというのも、珍しい気がします。
青山 そうですね。宿のシーツや浴衣を洗うために、クリーニング事業の資格をとって別会社まで立ち上げる観光協会はおそらく他にないと思います。それまで、使用後のリネン類はいったん宿で回収し、船に乗せて本州で洗濯するという流れをとっていました。
でもこれでは、本末転倒です。僕らは海士町の観光資源を使ってお金を稼ぐことを「外貨を稼ぐ」と呼んでいるんですが、それに習うとせっかく稼いだ外貨が本州に出て行ってしまうことなります。それを改善するために、島内で完結することは島内でしようということで、この事業が進められました。
実は僕はクリーニング事業を行う株式会社島ファクトリーの代表も務めているのですが、未経験から始めたこの洗濯業は、挑戦の連続で今は毎日がとても楽しいです。
例えばシーツを乾燥させるために、両手を広げても足りないくらい大きい専用の機械を使うんですが、実はその機械は乾燥と同時にアイロンがけもできるようになっていて、仕上がり、スピード、工夫をすればするほど成長していけるんです……って、この話を始めると止まらなくなってしまうので、とにかく思い入れを持って洗濯をしているんだということでとどめておきましょうか(笑)。
── 確かに宿泊した但馬屋と和泉荘のシーツは心地よい肌触りで、よく眠れました!
海士町ブランドの確立と、離島同士の連携
── 観光協会として今後の夢があったら教えてください。
青山 海士町ブランドをもっと確立させていきたいですね。
青山 僕は、島旅が好きな人は根本的にたくさんの島を訪れたいと思っているんじゃないかなと思っています。だから、無理に海士町のリピーターを増やそうとするのではなく、島旅好きな人の中で「海士町は楽しかった、いい島だった」と言ってもらえることを目指したいですね。「おすすめの島は?」と聞かれた時に、「海士町!」と答えてもらえるような流れができたら最高です。
── 青山さんが注目している島はありますか?
青山 長崎県の小値賀町と、北海道の礼文島ですね。どちらも独自の地域振興の手法に長けていて、勉強させてもらう点しかない場所なんですが、不思議なことに海士町と似通った部分もあるんです。
移住者の集まる町としてメディアに取り上げられることがあるという点はもちろんですが、人口や島面積も大体同じ、そして隣に空港がある大きな島がある、島内に水源を持っているなど、地理的な条件も一緒です。
それぞれが独立してきちんと島の経営をすることは大前提として、これからは島同士での共通ブランドづくりというのが重要な時代に入っていくのではないかと思っています。そういった時、小値賀町や礼文島といった他の島と相互にユーザーを共有できる仕組みが作れたら、島はもっと発展できると思っています。3島を巡るツアーを開催したり、一緒にイベントをしたり、人材交流もいいですね。
そういった意味では、島同士の連携は国内にとどまりません。海士町観光協会にはサミーラというスリランカ人の職員がいるんですが、僕個人の夢としては彼がいつか島同士の交流を目的とした、出張という形でスリランカに帰国してくれたらいいなと思っています。
それを目指すためにも、まずは地道な努力を重ね、島の観光の質の向上が絶対条件です。
── ありがとうございました。海士町は、季節ごとに旬の食べ物があり、人があたたかくておもしろい島だと思います。またぜひ遊びに来たいです。
青山 はい、ぜひお越しください。もとくら編集部の方々は、スナックに興味津々だと伺いました(笑)。海士町はスナック巡りも楽しいので、次回はぜひ一緒に行きましょう。
お話をうかがった人
青山 敦士(あおやま あつし)
1983年、北海道北広島市生まれ。札幌で野球一筋で育つ。大学進学で上京。途上国支援の活動を共にしていた先輩から海士町のことを聞き、新卒で海士町へ移住。海士町観光協会の職員として「海士の島旅」のブランディングに取り組み、地方の在り方を問う「島会議」の企画・運営を担当。2013年には観光協会の子会社となる㈱島ファクトリーを立ち上げ、旅行業・島のリネンサプライ業を運営。妻と子供2人。
【島根県海士町】特集の記事一覧はこちら
- 【島根県海士町】島と子どもの未来を変える「島まるごと図書館構想」
- 【島根県海士町】この島がこの島であり続けていくために – 観光協会 青山敦士 –
- 【島根県海士町】「好きな島といえば海士町!」という未来を目指して
- 【島根県海士町】故郷の中心には、隠岐神社がある。禰宜(ねぎ)・村尾茂樹
- 【島根県海士町】会いたい人には二度、三度会いにいけ。株式会社 巡の環 岡部有美子
- 【島根県海士町】デザインの無いところでデザインを。海士町の観光協会のデザイナー・千葉梢
- 【島根県海士町】島宿「但馬屋」から学ぶ循環する島暮らし
- 【島根県海士町】移住希望の若者よ「プレイヤーを目指せ。もうプランは十分だ」
- 【島根県海士町】「共生」なんておこがましい。持つべきは自然に生かされているという視点
- 【島根県海士町】専業主婦がいない町。離島に嫁いだ女性のリアル
- 【島根県海士町】地域暮らしの新しい働き方「マルチワーカー」とは
- 【島根県海士町】Iターン写真家が語る「つらいのは当たり前。まずは楽しめ!」の姿勢
- 【島根県海士町】鳥への愛は海を超え、渡り鳥への愛は島を超え
- 【島根県海士町】島の恵みがいただける、おすすめの食事処ベスト4
- 【島根県海士町】社会福祉協議会 片桐一彦の「島で生まれて島で死ぬ、これからの福祉」 – 前編 –
- 【島根県海士町】社会福祉協議会 片桐一彦の「島で生まれて島で死ぬ、これからの福祉」 – 後編 –
- 【島根県海士町】「島宿 和泉荘」女性限定の秘密のBarへ、ようこそ
- 【島根県海士町】移住・観光したい人へ!海士町へのアクセスをご説明します
- 【島根県海士町】みんな大好き!あまコミュニティチャンネルとは?
- 【島根県海士町】ぼくが島に辿り着くまで− 巡の環 信岡良亮 −:第1回
- 【島根県海士町】ヒトが絶滅危惧種?日本を変えないと海士町は変わらない:第2回
- 【島根県海士町】巡の環が目指す、江戸時代の藩邸をモデルにした「島の大使館構想」:第3回
- 【島根県海士町 編集後記】あとは「この土地で生きていく」という決意だけ
- 【島根県海士町】若者は開拓者だ。「隠岐國学習センター」から都市でも世界でもなく”地域を目指す
- 【島根県海士町】離島でグローカル!ぼくの新しい挑戦隠岐國学習センター長・豊田庄吾
- 【島根県海士町】ならではの資源で持続可能な産業を。株式会社ふるさと海士・奥田和司
- 【島根県海士町】甘酸っぱいふるさとの味。愛される「崎みかん」をもう一度。
- 【島根県海士町】崎みかんを育てるIターン者が、永住前提で島へ移住した理由
- 【島根県海士町】耕作放棄地ゼロの島に、いま何が起きている?「サンライズうづか」向山剛之
- 【島根県海士町】一度飲んだら忘れられないハーブティー「ふくぎ茶」に本気です|「さくらの家」施設長・本多美智子
- 【島根県海士町】寮は暮らしと地域を学ぶ場。大人ではなく生徒がつくる島前研修交流センター
- 【島根県海士町】だから僕たちは島に来た。「島留学」の男子高校生の暮らし
- 【島根県海士町】を旅するなら必ず泊まりたい!島のお宿「なかむら」&居酒屋「紺屋」
- 【島根県海士町】の遊び場「あまマーレ」から広がる人の輪
- 【島根県海士町】迎えても迎えても、出ていく移住者。「見送りの文化」を変えたい|島のお宿「なかむら」中村徹也
- 【島根県海士町】島生まれ島育ちの隠岐牛ができるまで|隠岐潮風ファーム・竹谷透
- 【島根県海士ゼミ】序章:海士ゼミに参加する君たちへ「当事者としてチームで未来を考えよう」
- 【島根県海士ゼミ】第1回:地域活性には4層のフェーズがある
- 【島根県海士ゼミ】第2回:君たちは「プランB」をつくっていく世代だ
- 【島根県海士ゼミ】第3回:「人間関係を重視する」「物事を進めていく」力の両方をインストールしよう
- 【島根県海士ゼミ】第4回:「モノ」や「お金」に心を乗せて「あなたに」贈ろう
- 【島根県海士ゼミ】フィールドワーク:武蔵野大学生たちが島で動き、感じ考えた3日間
- 【島根県海士ゼミ】都会と田舎の新しい関係を考える〜武蔵野大学 ✕ 巡の環 ✕ 灯台もと暮らし〜
- 【告知】11/28島の未来を考える「AMAカフェ」@ロハスカフェ有明を開催します!
- Iターンのきっかけにも!島根県海士町「島旅企画会議・AMAカフェ@東京」に参加してきました
- 島根県海士町の山内道雄町長、海士町交流特命大使の信岡良亮さんが登壇|TIP*Sマナビジカン主催のイベントが開催
この特集の裏話・未公開音源をnoteで限定公開中!
- [音で聴く]大地があって、自然があって、その上に人がいる。|隠岐しぜん村・深谷治さん
- [音で聴く]海士町の「福祉」のあり方を変えたい。福祉協議会・片桐一彦さん
- [取材記]編集部のモットーは「ローカル取材 with ワン・ミュージック」
- [ゆるぽむ的取材日記]海士町は、日本の縮図足り得るか
- [ゆるぽむ日記]専業主婦より、働く方が偉い島。
- [ゆるぽむ日記]綱引きして女子専用バーに来ました!
- [取材日記]ショートカットする「渡り鳥」の勇猛さに脱帽
- [ゆるぽむ日記]「羽田に向かえ」と言われたから、私……。
- [ゆるぽむ日記]島根に向かう飛行機の中で、ひとり
- [ゆるぽむ日記]島根県海士町特集の写真の悩み(笑)