どうして、「自分はこの道を行く」と決められるんだろう──。
ワールドカップを観ていても、好きな音楽を聴いていても、私の心に浮かぶのは「自分の道を決められたのは、どうして?」の疑問。

スポーツ、文章、写真、音楽。表現すること、突き詰めることに、この人生を捧げる。

趣味もやりたいこともない私にとって、その決断をできるひとがずっとうらやましくて。自分の道を決めた先で出会えた仲間が、すごく格別な存在のように見えて。

日本の伝統工芸を広めることを自分の「道」と決めた「meets new」のお二人と会ったときも、同じことを思いました。

なんで、その道を決められたんだろう、と。

meets new

まっすぐに目を見て堂々と自分のやりたいことを語り、たまに隣にいる相方のことを見て微笑む。

大学で学んだマーケティングの知識を淡々と語ったかと思えば、「これがいいんだ」と熱量を見せる。

いいなあ。うらやましい。

そう思いそうになっていた私に、自分の「道」を決める方法をお二人が見せてくれました。

meets new 河野涼

河野 涼(かわの りょう)

1991年宮崎県生まれ。大学でマーケティングを学び、株式会社オプトに就職。海外向けに日本のモノづくりを発信する動画メディア「Japan Made」を立ち上げ、伝統工芸の魅力に惹かれていく。2018年5月に「meets new」を立ち上げ。独立後も「Japan Made」の編集長を継続し、映像を撮りながら職人の元へ足を運ぶ日々を送る。サッカーと服、音楽が好き。 Twitterはこちら

meets new 金田謙太

金田 謙太(かねだ けんた)

1992年北海道生まれ。高校卒業後、英語を勉強したいとの思いからカメラを片手に単身渡米。ひとの心への関心からマーケティングを学び、アメリカで5年間を過ごす。新卒で株式会社DeNAに入社後、出向先のSHOWROOM株式会社にて海外事業に従事。会社在籍中にインバウンド旅行者向け撮影サービス「TOKYOGENIC」をスタートし、その後独立。ケーキが大好き。Twitterはこちら

自分の道を決めるきっかけは、手の中にあった

同い年の、金田さんと河野さん。二人は互いの熱量に共鳴し、出会って半年で「伝統工芸」を「自分たちの道」と決断。「meets new」を立ち上げました。

その道を決める手がかりは、出会う前からそれぞれの手のひらにあったようです。

まずは、お二人が自分の道を見つけるまでの物語を聞いていきましょう。

meets new

「小さい頃から調べ癖がありました。食べるもの、行く場所、使うもの。何の知識もない状態よりも、背景を知っているほうができる体験が違うし、ぜったい良いでしょって思っているんです。

新卒で入社した会社で、日本のモノづくりを海外に発信する動画メディア『Japan Made』を立ち上げたのも、『ものごとの背景を伝えるメディアをつくりたい』と思ったことがきっかけ。そこに『頑張っているひとに光を当てたい』っていう会社の考えを重ねたら、日本の伝統工芸や職人さんの存在が浮かびました」(河野さん)

meets new

「僕は5年間過ごしたアメリカで、日本製のものが消えていく様子を目の当たりにしました。日本のものが優れた性能を持っていても、他国の製品のほうが売れている。それは日本の製品にマーケティングの要素が弱いからなんじゃないか、と考えたんです。

じゃあ、アメリカの大学で学んだマーケティングをいかして、自分がこの問題を解決したい。自分がやるんだって使命感を持つようになりました。帰国後に就職するときに外資系を選ばなかったのも、アメリカでの学びを日本に還元したかったからです」(金田さん)

きっかけと真剣に向き合ったその先に

「日本」や「もの」への興味を持ちながら、仕事に邁進する毎日を過ごしていた二人。社会人4年目にあたる年、それぞれが「自分の道かもしれない」と思えるテーマを掴みます。

「毎日スクランブル交差点を通って出勤していたんですけど、少しずつ海外からの観光客が増えているのに気づいたんです。彼らがスマホで写真を撮っている姿を見ながら、『これは東京の思い出を残すにあたって最適な方法なんだろうか』って疑問に思っていて。

ある日ふと『自分が撮ればいいんじゃないか』と思って、会社員を続けながら海外旅行者向けの『TOKYOGENIC』という写真撮影サービスをはじめました」(金田さん)

TOKYOGENIC
金田さんが「TOKYOGENIC」で撮影した一枚。開始から一年ほど経った現在まで、通算40カ国程のお客さんの写真を撮ってきた

「写真を撮るのが大好きで、英語でのコミュニケーションをとれる。それさえあればフォトグラファーとして、お客さんが自分の国に帰ってから『東京ってこんな街だったよ』って友だちに話せるような写真を撮れるんじゃないかと。誰にも寄りかからない状態でなにかをつくりあげることにワクワクしていましたね」(金田さん)

海外への「日本」の売り出し方を模索していた金田さんが見つけた、写真での発信。始めてみたら、瞬く間に反響が広がっていきます。

Japan Made

一方の河野さんは、『Japan Made』で伝統工芸の職人をたずねては撮影する日々。

「僕はもともと、器用貧乏なのがすごくコンプレックス。『この道において僕はプロなんだ』って言えるくらい、誰にも負けない分野がないことがずっと悔しくて。でも出会った職人さんたちは、全員その道を極めているプロ。すごくかっこよくて、憧れました。

だから、お会いした職人さん全員に感銘を受けたって言えます。高岡のアルミ職人さんが『何十年やっても熱いものは熱いし、腰も痛え』とおっしゃっていたのですが、それでもその道を極め続けてきたんだな、と思うとグッときました。

あとは子どもの頃から背景を知るのが好きだったから、なんでこの地域でこの工芸が栄えたのか、歴史や地形から文脈を考えるのもすごく楽しかったですね」(河野さん)

自分がどの道を進むのかずっと決められずにいた河野さんも、伝統工芸を発信する仕事に出会ったことで「この道で行こう」と決断したのです。

二人で道を切り拓く決断をできた理由

meets new

金田さんは「TOKYOGENIC」をはじめたばかり、河野さんは自分の道を「伝統工芸」に決めて「Japan Made」を育てていたタイミングで、二人は出会います。

「『会わせたいひとがいる』って共通の友人に言われて、その友人と、謙太と僕でランチに行ったのがはじまりです。話してみたら、気が合うなって感じて」(河野さん)

「言葉にしづらいんですけど、ビビっときて。翌日には二人で会う約束を入れていましたね」(金田さん)

「二回目に会ったときは、二人とも将来的にやりたいと思っていた教育のテーマで盛り上がりました。考えているルートや落とし込み方が違っても、根底にあるものが同じで。『あ、こんなひとが同い年でいるんだ』って驚くくらい」(河野さん)

「スピード婚みたいで恥ずかしい」なんて言いつつ、「その出会いはもはや運命」と笑いながら口をそろえる。

二人は夏に出会ってすぐにメッセンジャーで語り合う仲になり、秋には「なにか一緒にやりたいね」と話し始めていました。

自分で立ち上げた「TOKYOGENIC」で手応えを感じていた金田さんは、一足早く年末に退職を決断。河野さんは退職するか迷ったのち、意を決して金田さんに声をかけます。

meets new

「年末に謙太に告白したんです。『一緒にやらない?』って。俺だけ熱量高いだけなのかなとか、もしかしたら自分だけでやりたいかもしれない、そこまで考えてないって言われたらどうしよう、ってめちゃくちゃ緊張しましたね」(河野さん)

「そのとき僕はもうすでに両思いだと思っていたんですよ。頭の中では一緒にやるイメージを描いていたので、すぐに『やろう』と」(金田さん)

二人が自分たちの手元にあった選択肢から決めた一つの道が、伝統工芸のオリジナルブランド。職人さんとその技をリスペクトしながら、日本のモノづくりを海外に広めること。

河野さんは慣れ親しんできたテーマですが、金田さんにとっての「伝統工芸」は踏み込んだことのない新しい領域。それでも決断した理由は、河野さんが魅せられた日本の伝統工芸に、金田さんも可能性を見出してみたくなったから。

「伝統工芸を選んだのは、涼の影響ですね。その背景にある歴史に特に興味を持ちました。ものの背景や歴史を持っている伝統工芸にマーケティングを組み合わせたら、大きな付加価値を生み出せるはず。その可能性を感じましたね」(金田さん)

道をつくり始めた、そのさきに

出会って半年、「伝統工芸の発信」の道をともに歩むことを決断した二人。

その道を切り拓くための、一歩目。

meets new

「『自分たちがやりたいことを表せるのってどんな言葉だろう』って話しながら僕が『meets new』って書いたら、『それだ!』って。1秒で決まりました。

既存の文化を尊重しつつ、そこから僕らがいいと思う要素を切り出して、新しく表現する。その表現が新しいひとに出会い、違う形がうまれていく。これら丸ごとを表現した『Something meets new something.』が由来です。

具体的には、既存の文化やひとの想いを僕らのデザインで表現して、職人さんにつくってもらい、海外に売り出す。これを『meets new』の自社ブランド事業としてやりたいんです」(河野さん)

 

二人がまず着手したのは、オリジナルブランドの立ち上げ。いずれは国内と海外で商品を販売するために、彼らが手をとりあったのは他でもなく伝統工芸の職人さんでした。

「『僕らこういうことやりたくて、こういうデザインでつくりたいんですけど、つくれますか』って職人さんに相談する毎日です。想いを伝えれば、職人さんも共感してくれて。『私たちじゃ思いつかないものが出てくる』って肯定してくれています。

だって、オッケーもらえる確信があるんです。僕らはものをつくれないけれど、デザインや発信が得意。職人さんはものをつくれて、需要と供給がマッチしているから」(河野さん)

職人さんたちと伴走しながら、一緒に歩みだした二人。彼らが今つくっているもの。

「パリのモーニングをテーマに、食器とランチョンマットを準備中です。道具として使ってもらいたいので、フランスの文化や気候を配慮しています。

海外の様式に全く合わせずに生活に関係ないものをつくってしまうと、僕らの自己満足で終わってしまう。日常的に使える道具に、伝統工芸の良さを吹き込む。この二つのバランスを保つのが僕らの仕事の肝だと思っています」(金田さん)

単にものを売るのではなく、商品のつくり手や歴史、そのものが使われてきた用途を「ストーリー」として発信し、そのストーリーありきに共感してもらえるものをつくりたいと言います。

「そのものがどうやってできているか、どういうひとがつくっているか。ストーリーと一緒にものを売るのが僕らの役割。日本の文化に投資する感覚で、ものを手に取ってもらえるようにしていきたいですね」(河野さん)

meet new EVERYDENIM
灯台もと暮らしでかつて取材した「EVERYDENIM」が立ち上げた、ものの良さと職人仕事を伝えるためのクラウドファンディング。「meets new」は空間プロデュースと写真・動画制作で携わっている

もののデザインの他に、モノづくりブランドやITスタートアップの会社と組んで、そのブランドのデザインに関わる事業も並行して進めている二人。将来的には、自分たちが長くあたためている「ストーリーを届けるための空間づくり」をやっていきたいと語ります。

「ウェブの業界にいたからこそ、インターネットの限界も感じていました。見て触って、重みやあたたかさを感じる。これはリアルでしか表現できない。だから空間が最強のメディアなんじゃないかって考えています」(金田さん)

「『Japan Made』の動画をつくっても、見てもらうだけじゃ職人さんの利益になかなかつながりにくい。触ってみないと良さを知りきれないし、販路も増えるわけではない。

じゃあ、実際に職人さんがいてコミュニケーションできたり、伝統工芸品を道具として使う体験をできたりする空間をつくろう、って二人で話しているんです。そうやってストーリーに触れることで、伝統工芸の良さをより理解してもらえる空間にしたいですね」(河野さん)

補い合いながら、前に進む

独立前から、動画や写真を使って情報発信してきた河野さんと金田さん。二人で事業を進めるにあたって、役割分担をしていないと言います。

「それぞれから違う表現が出てきたとき、僕らの間に議論が始まる。役割を明確に決めなくていい理由は、いつでもお互いの違いをおもしろがって、リスペクトできるからかなって」(金田さん)

冷静な分析、自分の直感と情熱。その両方を持って、自分がやっていることの意味をその熱量とともに伝えること。その思いがきっと届く、って相手を信じること。

自分を信じ、相手を信じる。

これが、自分の人生を捧げる「道」を決めるために、二人がやっていたこと。

meets new

そっか。私がその「道」を決めようとしている自分を信じ切れていないだけだった。

いつだって、自分の「道」を選ぶことができる。選べる自分を信じることができる。

足りていないのは、自分のやっていること、そして相手をまっすぐに信じる気持ち。

道を切り拓きはじめた二人が、その背中から教えてくれました。

meets new

出会ったひとと、互いに互いを補い合いながら、彼らは何を見つめ、何と出会うのか。

またその後を聞ける日が、とても楽しみです。

meets newのこと

meets new

2018年4月に河野涼さん、金田謙太さんの二人で立ち上げ。日本のモノづくりを海外に発信する自社ブランド事業と、商品やサービスのブランド価値を最大化させるコミュニケーションデザイン事業を展開するブランドデザイン会社。

「Japan Made」を運営してきた河野さんの伝統工芸への知識と人脈、「TOKYOGENIC」を拡大してきた金田さんの英語力と海外市場への理解を掛け合わせ、現在は日本の伝統工芸の技術を用いて海外に向けた商品を開発中。

ものの背景を立体的に捉え、感情を動かすストーリーをデザインしていくことがミッション。他にも空間からコミュニケーションまで、さまざまな角度からデザインを手がけている。

目指すのは、伝統工芸の職人と連携したモノづくりから、ストーリーの組み立て、世界に発信して届けるところまでを一貫してデザインできる会社。

「meets new」のnoteはこちら

文/菊池百合子
編集/小松崎拓郎、立花実咲
写真/小松崎拓郎
一部写真提供/meets new、Japan Made、TOKYOGENIC