誰かに決められたレールじゃなくて
周りの言うそれっぽいことじゃなくて
自分の心に従って、正直に正直に
恋をする、仕事をする、子育てをする。

そんな風に清々しく生きてみたい。高知県に訪れた際に、思ったことです。

「高知県に遊びに来ませんか?」
ある日、灯台もと暮らし編集部はそんなお誘いをいただきました。

「高知は個人経営のお店がたくさんあって、女性が切り盛りしているお店も多いんですよ」

というお話を編集部のタクロコマさんに聞いたわたし(小山内)は、どうしても高知へ行きたくなりました。高知の人々、とくに女性に会ってみたくなったから。

個人経営のお店を切り盛りする女性たち──、大学生のわたしは手に職を持っているわけではなく、自分で生計を立てているわけでもない。だからこそ自分のお店を構える女性というのは、なんだかとてもたくましく感じます。

これからどうやって働く? どこで暮らす?
なんてことを考える上で、高知の女性にお話を聞いてみたい、そんなふうに思ったんです。

高知城
高知城
とさでん交通
高知市街の中心に走るとさでん交通
高知市立自由民権記念館
高知市立自由民権記念館

伝統文化「土佐和紙」が教えてくれた、わたしにしかできないこと

高知県中部に位置するいの町は、約1100年の歴史がある、県の伝統文化として名高い土佐和紙の町。

歴史をさかのぼると920年頃(平安時代 延喜年間)に、高知は「紙を作る国」として記述されています。江戸末期に製造能率の向上や紙質の改良が進められ、土佐和紙の黄金時代を迎えたそう。

草花を好きなように散りばめ、オリジナルハガキを作る

今回は道の駅で紙漉き体験ができるということで「土佐和紙工芸村QRAUD」へ。挑戦したのは草花を好きなように散りばめ、オリジナルハガキをつくるコース。

できたオリジナルハガキは、プロの紙漉き職人さんがつくるそれとはやっぱり完成度は違うけれど、紛れもなく世界に一つだけのハガキです。

土佐和紙

完成品を手に取ると、他の誰にもつくることのできないものをつくれたことが、とても嬉しく感じました。もしかしたらこれから会う個人店を営むひとたちも、「たった一つの何かをつくりたいという想いがあるのかもしれない」と、思いを巡らせてみたりもして。

土佐和紙

草花を散りばめているときに湧き上がってきたワクワク感は、「きっとわたしはなにかをつくり出すことが好きなんだ」という気づきを与えてくれました。

創作活動は、素人でも体験を通して自分と向き合うきっかけを与えてくれるから、不思議なものです。そして、そんなちょっとした気づきを毎日に生かすことが、きっと一番の自分へのお土産になるのでしょう。

仁淀川

青とグリーンが光る仁淀川を背に、土佐和紙工芸村QRAUDを去ります。次に向かったのは、高知市の中心地であるはりまや橋から車で約20分、五台山にある「竹林寺」。

竹林寺

竹林寺の参道

竹林寺

自分の幸せを掴み取る女性。よさこい節の「お馬さん」のお話

高知発祥のよさこいにはこんな一節があるのをご存知でしょうか。

土佐の高知のはりまや橋で
坊さんかんざし買うを見た
よさこい よさこい

これは江戸時代の末期、高知にあるお寺竹林寺の僧であった純真(じゅんしん)と、一般人の美しい娘、お馬(うま)の悲しい恋のお話がもととなっているのです。竹林寺を訪れ、住職の海老塚和秀さんに純真とお馬のお話を聞きました。

竹林寺の住職さん

「竹林寺のお坊さんであった純真とお馬は恋に落ちてしまうのですが、もうひとり竹林寺の僧であった慶全(けいぜん)もお馬さんに恋をしていたため、三角関係になってしまうのです。

慶全はどうにかお馬さんの気を引こうと、はりまや橋でかんざしを買ってお馬さんにプレゼントしますが、お馬さんの気持ちは変わらず純真に向きつづけます。嫉妬にかられた慶全はこんな噂を流したのです。

『お馬にかんざしを買ったのは純真だ。僧の身分で女性にかんざしを贈るなど、とんだ生臭坊主である』と。

とうとう駆け落ちをしたお馬と純真。しかし二人は町に連れ戻され、さらし者にされたのち、別々の土地へ追放されてしまいます。離れ離れになっても純真はお馬を想い続けますが、お馬はどうだったと思いますか?

お馬は、違う男のひとと結婚して幸せに暮らしていたのです。遠い地で一人で幸せになったんですよね。高知の女性にはそういうお馬みたいなひとが多いと思うんです。自分で幸せを掴みとりにいく。そういう意味では、幕末志士の坂本龍馬しかり、ひとの下で働くことが苦手というひとも多い気がしますね」(海老塚さん)

江戸時代といえば身分がはっきり分かれていた時代。そんな環境でも駆け落ちをすることを選んだのは、お互いが周りに流されずに、自分の中にある本当の幸せと向き合った結果だったのでしょう。

たぶん、そんなお馬さんだったから追放された土地でも自分の力で幸せになったのだな、と思うのです。

竹林寺の庭園

「誰かがやってくれないかなぁ……じゃなくて、わたしがやってみてもいいんじゃないか?」

高知の女性が個人店を経営することが多い理由は、お馬さんのお話に通じる部分が大きいと感じました。自分の足で勝手に幸せになっていく、とてもしなやかでたくましいひとだったのだと思います。

そして、そんなふうに暮らしを営んでいる女性に出会うことができました。高知市一ツ橋町にある、食堂とちいさな本屋を併設した「食事と図書 雨風食堂(以下、雨風食堂)」で。

伊東愛友美さん

雨風食堂は伊東龍洋さん、愛友美さんご夫婦とスタッフの皆さんで切り盛りしているお店。長年料理人として修行してきたご主人の龍洋さんが調理する料理は、一品一品が本当に優しい味わいです。

雨風食堂の料理
本日のお昼ごはんは「炙りカマスの胡麻だれ」(1,400円)

料理以外の全ての部分に目を配り、料理の世界観を損なわないようお店を整えているのが愛友美さん。

スタッフさんたちと細かくコミュニケーションをとったり、お店の方向性を決めたり、事務や経理の仕事も担っています。

「片手間ではつくれない料理ですし、作り手の心の状態が料理にも出てくると思うので、なるべく夫が料理だけに集中して、気持ち良くつくり続けられるようにするのがわたしの仕事だと思っています」(愛友美さん)

雨風食堂

以前は東京の世田谷区、奥沢で暮らしていたという愛友美さん。地元の高知市にUターンを決意し、2013年に雨風食堂をオープンしました。なぜ高知市に戻ってきたのでしょうか?

「高知市には5年ほど前に、もともと料理人だった夫と雨風食堂をやろうと決めて戻ってきました。この雨風食堂にはね、裏手に小さな図書室があって、本を売っているんです。

図書室をつくろうと思ったのは、東京から地元高知市に戻ってきたときに、“選んだひとの意図や気配が感じられる、小さな本屋さんがあったらいいな”と思ったのがきっかけでした。

大型書店も好きですが、そればかりだと寂しくて。誰か個人が選んでいる、という偏りが面白かったり、安心したりするんじゃないかなと思って。

でも、誰かがやってくれないかなぁ、なんて思うのはなんだか嫌で。誰かが……じゃなくてわたしがやってみてもいいんじゃないか?って思って、雨風食堂に図書室をつくったんです」(愛友美さん)

雨風食堂
赤ちゃんも気軽に連れて行けるように、靴を脱いで入れる図書室。子どもとお母さんが、本を眺め、美味しいご飯を食べてホッとできる場所に

「もともと、高知から上京したのは大好きな写真を勉強するためでした。でも、専門学校で学んでいるうちに、カメラマンになることをやめようと思ったんですよね。

なぜかというと、わたし、ひとに言われた通りのことをそのままやるのが嫌だったんです。何をやるにも工夫の余地を見つけて、実験を繰り返すことに楽しさを感じていたから。写真はとても好きだったので、自分の思うように撮りたい。

でも、誰かのリクエストに答えるのが仕事です。だとしたら写真じゃないほうが割り切ってできる。写真を仕事にするにはあまりに勿体無いと思ったんです。

そこで、もう少し自分の好きなこととひとの役に立てることの交差点で手に職を持ちたいと思い、東京で働きながら、ウェブデザインの学校に通いました。誰がやっても同じ結果にならない仕事がしたくて。

その後はウェブデザイナーとして制作会社に勤めてからフリーランスになり、Uターンし今に至ります」(愛友美さん)

雨風食堂

「高知は竹を割ったような性格のひとが多いのかもしれませんね。

わたしもですけど、好きなものは好き、嫌いなものは嫌い。いいと思えないこと、納得していないことをするのには抵抗したくなります。誰かのせいにもしたくない。だから、個人店が向いていると思います。

周りにも個人経営をしているひとたちはたくさんいますが、みんな自分の責任でやっているので、仕事に対してとても真っ直ぐなひとが多いなぁって、日々感じています」(愛友美さん)

雨風食堂

現在わたし(小山内)は21歳。就職活動や恋愛で悩むことばかりです。愛友美さんは、迷った時、未来に不安を感じる時、何を指針に人生を歩んできたのでしょうか。

「わたしは地元に帰ってきたけど、上京したこと自体はとても良かったと思っていて、やっぱり会社員時代に全力で目の前の仕事をしたから嫌なことも、やりたいこともわかったと思うんですよね。

経験上、これからのことを考えてもその通りにいった試しがないというか、いくのかもしれないですけど、あらかじめ道筋を描くことにあまり意味がないような気がしていて。ひとも出来事もすべてはご縁でやってきたから、自分たちにとって気持ちがいいと感じた縁は、誠意を持って繋げていく。

何かちがうなと感じた縁は繋げない。あとは、ひたすら目の前のことをじっと観察して、嫌な感じがないか、ブレや緩みがないかを確かめて、昨日より今日を良くできることはしていく。その繰り返しじゃないかなぁと思っています」(愛友美さん)

伊東愛友美さん

「今の若いひとは“動く前に答えや正解を探している”っていう話を聞きますけど、それはいいから、とにかく歩け歩け! 誰かに出会うし、何かが起こるから!って、伝えたいです。

人生に遊んでもらいながら、都度、気持ちのいい方を選択して、気持ちがいいと思う行動をとっていけばいいだけなんじゃないかなぁと。その、見たり感じたり、選択をする為の感覚が澱んでいないことがだけが大切で。その為に自分の感覚と向き合える高知に帰ってきたのかも。

これまでいろんなひとのご縁に助けられて今があるので、どんな形でも、直接その方にお返しすることができなくても、身の回りのひとたちに少しずつ、日々返していけたら」(愛友美さん)

雨風食堂

雨風食堂さんでご飯をいただいた後、愛友美さんと一緒に高知市内を観光させてもらいました。

「実はあそこのお店もとても素敵でね」と笑顔で話す彼女を見ていたら、高知にはまだまだ知られていない素敵なお店があるのだろうと思います。

* * *

迷った時、未来が見えない時。不安だからこそ「この迷いに対する正解はなんだろう?」と、他人の言葉に流されてみたくなったりもします。

だけどそれはあくまで他人の選択。他人の人生。

自分の人生に責任をもてるのはやっぱり自分しかいないから、愛友美さんのように、目の前の出来事に対して自分が気持ちがいいと思う方を、足を止めずに選んでいくことが大切なのではないでしょうか。

わたしも、自分の心に従って、清々しく生きよう。

仁淀川と菜の花高知には自分自身ととことん向き合って、手探りで幸せを探して来たひとたちがたくさんいる。お馬さんも、あゆみさんも、まだ出会っていない高知の人々もきっと、背中を押してくれる存在だと思います。

パノラマ

(この記事は、志国高知 幕末維新博推進協議会と協働で製作する記事広告コンテンツです)

お話を伺ったひと

海老塚 和秀(えびづか わしゅう)
高知県生まれ。高校卒業後、京都の総本山で修行を積む。その後大学で仏教を学び、21歳の若さで竹林寺の住職に就任。

伊東 愛友美(いとう あゆみ)
高知県高知市出身。地元高知にUターンをし、2013年7月に夫と二人で「食事と図書 雨風食堂」をオープン。お店を経営しながら、ウェブデザインの仕事もおこなう。伊東さんのオススメスポットは五台山展望台。

訪れた場所

土佐和紙工芸村QRAUD
住所:高知県吾川郡いの町鹿敷1226
電話番号:088-892-1001
営業時間:(予約受付)9:00~16:00
定休日:水曜日
アクセス:JR伊野駅より県交北部交通バスで15分、岩村下車すぐ
公式サイトはこちら

竹林寺
住所:高知市五台山3577
電話番号:088-882-3085
営業時間:境内 24時間開放
アクセス:高知駅からMY遊バスで26分
公式サイトはこちら

食事と図書 雨風食堂
住所:高知市一ツ橋町一丁目65
電話番号:088-819-2103
営業時間:11:30〜夕方頃(※売切れ次第終了)
定休日:日・祝(不定休あり)
アクセス:JR高知駅より車で6分、徒歩22分
三園町バス停より徒歩1分
公式サイトはこちら

志国高知 幕末維新博

地域会場:いの町 紙の博物館
住所:高知県吾川郡 いの町幸町110−1
電話番号:088-8930886
営業時間:9:00〜17:00
休館日:月曜(祝日の場合は翌日休、12月27日〜翌1月4日休)
入館料:大人500円、小・中・高生100円
手漉き体験400円(色紙2枚・はがき8枚)
アクセス:土讃線伊野駅下車、徒歩約10分
とさでん交通路面電車「伊野終点」下車、徒歩約10分
公式サイトはこちら

(写真/タクロコマ)